マシンビジョンレンズとは。製造現場の画像処理に用いられる種類と選定のポイント

マシンビジョンは、産業用カメラで取得した画像データを画像処理システムによって解析して、その結果に応じて機械やロボットを動作させる技術です。製造現場においては、製品の外観検査やロボットの自律制御などに活用されています。
マシンビジョンを高精度で行うために重要となるのが、「レンズ」の選定です。
「微細なキズを検出できない」「寸法計測の精度にばらつきがある」などの問題が生じている場合は、適切なレンズの選定ができていないのかもしれません。
この記事では、マシンビジョンに用いられる代表的なレンズの種類や、レンズを選定する際に考慮するポイントについて解説します。
マシンビジョンレンズとは

マシンビジョンレンズとは、産業用カメラ(以下、カメラ)に装着して対象物の画像を取得する光学レンズです。専用ソフトウェアと連携して、取得した画像の処理・解析を行うことで、寸法・形状・色などの対象物の特徴を抽出することが可能です。
製造業では、目視による検査や寸法計測の作業を自動化したり、手作業で対応していた工程をロボットに代替させたりする目的で活用されています。
▼製造業での主な活用分野
| 活用分野 | 概要 |
|---|---|
| AI外観検査 | 製品やワークのキズ・欠け・汚れ・変色などの不良を検出する |
| 寸法計測 | 製品や精密部品の正確な寸法を計測して、設計図や要求品質どおりにできているか検査・評価する |
| ロボット制御 | 工作機械やロボットアームによるワークの位置決めを行ったり、コンベアを流れるワークを追従して協業ロボットを動かしたりする |
マシンビジョンを行ううえで、レンズは重要な役割を担っています。レンズの選定を誤ると正しい画像処理が行われず、誤検知によって歩留まりが低下したり、過検出によって手直し工数が増加したりする可能性があります。
マシンビジョンの精度を向上させるには、カメラの性能に加えて「対象物を鮮明に撮像できるレンズ」を選ぶことが欠かせません。
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マシンビジョンレンズの種類
ここでは、マシンビジョンに使用される代表的なレンズの種類を紹介します。まずは、レンズの特徴を比較するうえで押さえておきたい基本用語をまとめました。
▼マシンビジョンレンズに関する基本用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 焦点距離 | レンズの中心からカメラのイメージセンサーまでの距離。 |
| 作動距離 | 焦点(ピント)が合っているときのレンズの先端から対象物までの距離。WD(ワーキングディスタンス)とも呼ばれる。 |
| 画角 | カメラで一度に撮影できる範囲の角度。レンズの焦点距離とイメージセンサーのサイズによって決まる。 |
| 視野 | カメラで捉えられる空間全体の範囲。画角と対象物までの距離によって決まる。「撮影範囲」とも呼ばれる。 |
| 被写界深度 | ピントが合う遠近(奥行き)の範囲。浅いほど前景・背景がぼやけて見え、深いほど手前から奥までくっきり写る。 |
固定焦点レンズ

固定焦点レンズは、焦点を自動調整する機構がなく、対象物に合わせて焦点距離を固定して撮像するレンズです。
マシンビジョンにおいてもっとも一般的なレンズとなっており、対象物との作動距離(WD)によって像の大きさが変動する性質があります。
▼固定焦点レンズの特徴
- 焦点距離が短いレンズほど画角が広く、長いレンズほど画角が狭い
- 作動距離が無限遠で、距離を変えると手動でピント調節が必要
- 画像の周辺部分で寸法の変動や歪みが生じることがある
可変焦点レンズ

可変焦点レンズは、焦点距離を変えて画角を調整できるレンズです。「バリフォーカルレンズ」とも呼ばれます。
設置後に広角や望遠などの見え方を調整できるため、多品種の製造ラインや、カメラの固定位置が物理的に制限され、固定焦点レンズでは画角が合わない場合などに適しています。
▼可変焦点レンズの特徴
- 設置後にズームアップ(拡大)・ズームバック(縮小)によって画角を変えられる
- 画角を変える場合は手動でピントを合わせ直す必要がある
広角レンズ

広角レンズは、広い範囲を写せるレンズのことです。標準レンズの画角は約45~60°とされているが、広角レンズは約60°以上となっています。
製造業のマシンビジョンでは、大型ワークの検知やベルトコンベア上の通過確認、ロボットアームによるピッキングや位置決めなどに用いられます。
▼広角レンズの特徴
- 焦点距離が短く画角が広い
- 被写界深度が深く、手前から奥まで広範囲を捉えられる
- 画像の周辺に歪みが発生しやすく、寸法測定には向かない
魚眼レンズ

魚眼レンズは、通常の広角レンズよりも広い画角(180°以上)の撮像ができるレンズです。空間の広い範囲を1つの画像に収められるため、自動搬送車の動体検知やエリア監視などを目的としたマシンビジョンに活用されています。
画像に強い歪みが生じるため、寸法計測や精密検査には適していません。
▼魚眼レンズの特徴
- 対象物に近い距離でも180°以上の近い広範囲を写せる
- 複数のカメラや特殊カメラによって360°の全周囲撮像ができるものもある
- 画像に強い湾曲が生じ、中心から外側になるほど歪んで見える
マクロレンズ(接写レンズ)

マクロレンズ(接写レンズ)は、小さな対象物を大きく高解像な画像で捉えるための近接撮影に特化したレンズです。一般的に焦点距離が50mm~150mm程度の単焦点レンズがマクロレンズと呼ばれます。※単焦点レンズ(焦点距離が固定されたレンズ)
製造業のマシンビジョンでは、微細な電子基板や小さな部品の検査に適しています。
▼マクロレンズの特徴
- 対象物の細部を拡大して高解像に撮像できる
- 作動距離(WD)が短く、撮影可能な距離が限定される
- 被写界深度が浅くぼやけやすいため、ピント調整の精度が求められる
テレセントリックレンズ

テレセントリックレンズは、入射・射出する光線が光軸に対して平行になるように設計された特殊な構造のレンズです。
画角がなく、対象物との距離が変わっても像の倍率が一定のため、高い精度が求められる寸法計測に適しています。レンズから光を照射する「同軸落射照明」を行う場合には、テレセントリックレンズが必須となります。
▼テレセントリックレンズの特徴
- 対象物との距離が変化しても画像の見え方が変わらない
- 画像の周辺部分の寸法に変動がなく、歪みが生じない
- レンズ径より広い視野での撮像はできない
マシンビジョンレンズの選定で考慮する7つのポイント
マシンビジョンの精度は、レンズによって左右されます。正確な画像処理を行うために、レンズの選定時には以下のポイントを考慮する必要があります。
①対象物を写すときの視野
対象物を写すときに必要な視野を明確にすることが重要です。
焦点距離が短いほど広い画角、長くなるほど狭い画角で写せるため、撮像したい視野の広さに応じてレンズの焦点距離を選択します。
▼視野に適したレンズの種類
| 視野の広さ | レンズの種類 |
|---|---|
| 広い | 短焦点レンズ(焦点距離の目安:35mm以下) |
| 標準 | 中焦点レンズ(焦点距離の目安:50mm程度) |
| 狭い | 長焦点レンズ(焦点距離の目安:70mm以上) |
大型ワークの有無検出やパレット全体の個数カウントなどでは、広い視野を写せる広角レンズが適しています。一方、小さな部品や電子基板の検査などは、細部を拡大して撮像できるマクロレンズが適しているといえます。
②WD(ワーキングディスタンス)の制約
WDは、レンズの先端から対象物までの物理的な距離のことです。
製造現場では、既存設備の構造やロボットの可動範囲、照明の設置場所などによって、カメラを設置できる位置に制約があります。WDの制約状況を踏まえたうえで、必要な視野を確保しつつ対象物とのピントが合うように、レンズの焦点距離と倍率のバランスを導き出すことが重要です。
③イメージセンサーのサイズ
同じ焦点距離のレンズを使用しても、カメラ側のイメージセンサーのサイズによって撮影可能な視野は変わります。
レンズが投影する円形の像(イメージサークル)がセンサーサイズよりも小さくなると、画像の四隅が黒くなる「ケラレ」と呼ばれる現象が起きて鮮明な撮像ができなくなるため、注意が必要です。必要な画角を得るためには、レンズのイメージサークルがセンサーのサイズ以上になるように選定する必要があります。
▼一般的なイメージセンサーのサイズ
- 1/3型
- 1/2型
- 2/3型
- 1/1.8型
- 1/1.7型
- 1型 など
④歪み(ディストーション)の許容レベル
マシンビジョンの用途によって許容される歪みの程度が異なります。
固定焦点レンズや広角レンズでは、画像の周辺部に歪みが生じやすく、魚眼レンズでは強い強い湾曲が現れるため、寸法計測や精密検査には適していません。
歪みを抑えて正確な寸法計測や微細な検査を行いたい場合には、「テレセントリックレンズ」の選定が適切といえます。
⑤レンズの解像度
イメージセンサーの画素数に合ったレンズの解像度を選択することが必要です。
高画素のイメージセンサーでも、レンズの解像度が不足していると能力を十分に引き出せず、画像がぼやけて不鮮明になってしまいます。鮮明な画像を得るには、画素数に適した解像度を備えたレンズが求められます。
レンズの解像度は、1つひとつの画素の物理的なサイズ(ピクセルピッチ)を表す「μm(マイクロメートル)」で表記されることが一般的です。この数値が低くなるほどピクセルピッチが小さく画素密度が高いため、高精細な画像を得られます。
⑥カメラとレンズマウントの互換性
マシンビジョン用のカメラとレンズマウントの互換性を確認する必要があります。マウントとは、カメラ本体のボディとレンズをつなぐ接合部の規格を指します。
マウントが異なるとレンズを装着できなかったり、機能が制限されたりするため、カメラに合ったレンズマウントを選ぶことが重要です。
産業用カメラの主要なマウントは、JEITA規格の「Cマウント」と「CSマウント」の2つがあり、それぞれフランジバック(※)に違いがあります。
▼マシンビジョンレンズの主要なマウント
| 規格 | フランジバック |
|---|---|
| Cマウント | 17.526mm |
| CSマウント | 12.500mm |
※カメラボディとレンズの接合部からイメージセンサーまでの距離
⑦設置環境に応じた耐環境性能
製造現場では、設備・機械の振動や熱による影響を受けやすいほか、工場によっては水分や油分などが飛散することもあります。
外部環境による影響を抑えて安定した品質で撮像するには、カメラの設置場所に求められる耐環境性能に合わせてレンズの素材や加工などを選択することが必要です。
▼マシンビジョンレンズの耐環境性能の例
- 耐振動・耐衝撃性能
- 傷防止コーティング
- 防塵・防水性能:
- 耐薬品性
- 耐温度変化性能 など
まとめ
マシンビジョンのレンズは、画像処理の精度を左右する重要な要素の一つです。誤検知や過検出を防ぎ、高精度なマシンビジョンを実現するには、対象物・用途・設置環境・カメラとの互換性などを踏まえて、適切なレンズを選定することが重要です。
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