マテハンとは?今さら聞けない基礎と工程別の機器一覧、導入メリットを徹底解説

目次
マテハンとは?意味と製造・物流での位置づけ
「マテハン」はMaterial Handlingの略で、原材料や部品、仕掛品、完成品といった“モノ”を移動・保管・仕分け・梱包するときに発生する作業や、それを支える機器・システム全体を示す言葉です。
フォークリフトやコンベヤといった装置の名前として使われることも多いものの、本来は「工程設計」まで含む広い概念で、製造ラインと倉庫、あるいは工場と物流センターをつなぐ血管のような役割を担います。
なぜ“ハンドリング”ではなくマテハンと呼ぶのか
ハンドリングは手作業をイメージさせますが、マテハンが対象にするのは人手の作業だけではありません。自動倉庫やAGV(無人搬送車)、ピッキングロボットなどを統合した「モノと情報の流れ」そのものを最適化する考え方が根底にあるため、業界では省略語として定着しました。
製造現場では「生産計画と物流計画をつなぐ仕組み」、物流現場では「庫内作業を自動化する装置」の意味合いで使われることが多く、導入検討の際は両者をセットで捉える視点が欠かせません。
サプライチェーンにおける機能と効果
製造から出荷までの流れを俯瞰すると、マテハン機器は以下の5つの工程で稼働しています。
- 搬入・受け入れ
- 保管・在庫管理
- 搬送・移載
- 加工・組立支援
- 出荷・梱包
たとえば保管工程で自動倉庫を導入すれば、パレット単位の入出庫指示がWMS(倉庫管理システム)経由で自動発行され、先入先出を徹底できます。搬送工程でAGVやAMRを使えば、人とロボットが混在する通路でも安全速度で協調走行し、ライン停止を起こさずに部材を届けられます。
このようにマテハンは単体の機器ではなく、MES(製造実行システム)やERP(統合基幹業務システム)とつながるサプライチェーン全体の仕組みとして設計・運用することで真価を発揮します。
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工程別でわかる主要マテハン機器一覧
製造業や物流の現場で「マテハン(マテリアルハンドリング)」が果たす役割は非常に大きく、現場の自動化・省人化・安全性向上に直結する重要な要素です。しかし、「マテハンを導入したい」と思ったときに、多く聞かれるのが次のような声です。
「そもそも、どこに何を入れればいいのか、よくわからない」
「種類が多すぎて、自社に合った機器をどう選ぶのが正解なのか知りたい」
このような声に応えるためには、個々の機器の性能や価格を比較する前に、工程単位でマテハンを理解する視点が必要です。なぜなら、工程ごとに必要とされる機能・優先順位・改善余地はまったく異なるからです。
本章では、製造・物流プロセスを以下の5つの工程に分解し、それぞれで使われる代表的なマテハン機器を体系的に紹介します。
工程①:搬入・受け入れ工程
外部から届いた部品や資材をスムーズに受け入れることは、生産全体の効率を左右する重要な起点です。しかし現場では、段差による荷崩れや、人手不足による荷降ろしの遅れなど、多くの課題が生じがちです。
この工程でマテハンを導入することは、安全性の確保と作業スピードの安定化に直結します。
主なマテハン機器とその特徴
機器名 | 機能 | 活用シーン |
---|---|---|
ドックレベラー | トラックと工場床の段差を解消 | 搬入ゲート、バース |
ハンドパレットトラック | パレットを手動で搬送 | 仮置き・検品エリア |
バンニング・デバンニングリフト | コンテナ荷物を安全に出し入れ | 海上輸送品の搬入 |
荷受け用ローラーコンベア | 荷降ろし後にラインへ流す | 物流センターの仕分け導線 |
搬入作業は、事故リスクが高く、人手もかかる工程です。段差処理や重量物の扱いを人力で行っている現場では、腰痛・転倒といった労災リスクや、属人化による効率低下が課題になります。
マテハンを導入することで、誰でも安全・一定のスピードで作業できる体制をつくることができます。また、荷崩れ・破損による品質トラブルの予防にもつながり、結果として後工程への負荷も軽減されます。
工程②:保管・在庫管理工程
搬入された物品を、次の工程まで適切に保管することは、製造現場全体の効率と在庫精度に直結します。特に保管スペースが限られている現場では、いかに省スペースで整理し、出入庫をスムーズに行うかが生産性を左右します。
マテハン機器を活用すれば、人手に頼らない入出庫が実現でき、保管効率と作業負荷の最適バランスが図れます。
主なマテハン機器とその特徴
機器名 | 機能 | 活用シーン |
---|---|---|
自動倉庫(スタッカークレーン) | 高層棚に自動で出入庫 | 部品や製品の集中保管 |
パレットラック | 重量物の効率的保管 | 倉庫の定番設備 |
モバイルラック | 可動式でスペース最大化 | 通路が狭い中小工場や事務所併設型倉庫 |
在庫管理工程では、省スペース性と誤出庫防止の両立が求められます。自動倉庫やモバイルラックを導入すれば、通路の最小化と高密度保管が実現し、限られたスペースでも運用効率を落とさずに済みます。
また、バーコードやWMSとの連携により、出入庫の記録・在庫の可視化も可能となり、棚卸やトレーサビリティの精度向上にもつながります。属人的な在庫把握を脱却し、誰が見ても分かる管理体制を構築できる点が、マテハン導入の大きな価値です。
工程③:搬送・移載工程
製造現場や物流倉庫では、原材料や部品、製品などを工程から工程へ移動させる作業が日常的に発生します。
一見シンプルに見えるこの「物を運ぶ」工程ですが、実は人手で対応していると、膨大な労力と時間がかかることが少なくありません。特に広い施設や複数フロアを持つ現場では、移動距離の長さや頻度の多さが作業者の負担となり、生産性を大きく左右します。
この搬送・移載工程をマテハン機器で自動化・効率化することは、全体の流れの最適化に直結する重要な取り組みです。改善効果が表れやすく、比較的短期間で投資回収できるため、最初の導入対象として検討されるケースも多く見られます。
主なマテハン機器とその特徴
機器名 | 機能 | 活用シーン |
---|---|---|
AGV(無人搬送車) | 指定ルートを自律的に走行し、物品を搬送 | 工場内の工程間移動、倉庫内のピッキング搬送 |
コンベア | 一定方向に物を流し続ける定置型の搬送装置 | 組立ライン、出荷前仕分け工程 |
自動垂直搬送機(リフター) | 上下階の間で自動搬送を行う昇降装置 | 多層構造の工場や倉庫フロア間搬送 |
搬送作業の多くは、工数がかかる割に付加価値が生まれにくい「間接作業」の代表です。現場によっては、作業者が1日何十回も往復して部品を運んでおり、その時間と労力が目に見えないロスとして積み上がっています。
AGVやコンベアといった搬送用マテハン機器を導入すれば、そうした作業を自動化し、作業者がより重要な工程に集中できる環境を整えることができます。また、搬送中の落下や衝突といった事故リスクも軽減され、安全性の向上にもつながります。さらに、上下階をつなぐ作業が多い現場では、垂直搬送機の導入によって、エレベーターや人力での昇降に頼らない効率的な運用が可能になります。
工程④:加工・組立支援工程
加工や組立といった作業工程では、単にモノを運ぶだけでなく、作業者が正確かつ安全に作業を行えるよう支援することがマテハン機器の役割です。
ここでは、部品の持ち上げや位置調整、工具の保持、姿勢の補助など、作業そのものに伴う肉体的負担や精度のばらつきを抑えることが求められます。とくに多品種少量生産を行う現場では、機械による全自動化が難しい一方で、作業品質と作業者の負荷軽減を両立する工夫が重要になります。そのため、加工・組立支援の工程では、人と設備が協調して働く仕組みづくりが、マテハン導入の鍵となります。
主なマテハン機器とその特徴
機器名 | 機能 | 活用シーン |
---|---|---|
アシストスーツ | 作業者の動作を補助し、負担を軽減 | 重量部品の持ち上げ作業/組立・溶接ライン |
トルクアーム | 工具の保持・反力の吸収により精密作業を支援 | ネジ締め工程/電装品組立など |
昇降テーブル | 作業台の高さを柔軟に調整し、作業姿勢を改善 | 加工機まわり/多様な体格の作業者が使う工程 |
加工・組立支援の工程では、作業品質の安定と作業者の身体的負荷の軽減という2つの視点からマテハン導入を検討することが重要です。
たとえば、重い部品を何度も持ち上げる作業では、作業効率が落ちるだけでなく、腰痛や疲労による作業ミスのリスクが高まります。アシストスーツや昇降テーブルを導入すれば、負担を減らしながら適切な姿勢を保てるため、作業者の生産性と安全性を同時に高めることができます。また、繊細な工具操作が必要な工程では、トルクアームを使うことで精度のばらつきや反復動作による疲労の蓄積を防ぐことが可能です。
このように、「人が機械の補助を受けながら高品質な作業を持続できる環境」を整えることが、マテハンの役割です。
工程⑤:出荷・梱包工程
製造や物流の最終工程である出荷・梱包では、完成品や出荷品を安全・正確に包装し、顧客へ届ける準備を行います。
この工程では、作業効率だけでなく、積み間違いやラベルの貼り間違い、荷崩れなどのミス防止が非常に重要です。なぜなら、どれだけ製品自体が高品質でも、出荷ミスや破損があれば、顧客の信頼を一気に失うことになるからです。
物流量の多い企業では、この工程を人間が担うこと自体が納期遅延やミスの温床となっており、改善の優先順位が高い分野となっています。マテハン機器を導入することで、作業スピードと精度の両立が実現し、トラブルの予防・省人化・コスト削減へとつながります。
主なマテハン機器とその特徴
機器名 | 機能 | 活用シーン |
---|---|---|
ストレッチフィルム包装機 | 製品やパレット荷物を自動でフィルム包装し、荷崩れや汚れを防ぐ | パレット出荷、防塵・防湿が必要な現場 |
自動ラベラー | 箱や製品にラベルを正確に貼付し、識別・管理を支援 | 出荷前の製品管理、バーコード・QRコード運用 |
パレタイザー | 箱や袋を自動で積み上げ、荷姿を整える | 出荷ヤード、大量出荷の積載作業支援 |
出荷や梱包は、最終工程でありながら、ヒューマンエラーが最も発生しやすい領域です。
製品に問題がなくとも、ラベルの貼り間違いや積み付けミスがあるだけで、顧客満足度は大きく損なわれます。
マテハン機器を活用することで、こうした作業を自動化し、作業者のスキルや経験に頼らない安定した品質を確保することができます。たとえば、パレタイザーを用いれば、重い荷物を手作業で積み上げる必要がなくなり、作業者の負担軽減と作業スピードの向上が同時に実現します。さらに、ラベラーや包装機といった機器を組み合わせることで、包装・識別・積載の一連の流れを一体化したシステムとして構築することも可能です。
これにより、出荷業務のミスが減り、納期の安定性や再発防止にもつながります。
マテハンを導入する5つのメリット
マテハン機器を導入する目的は、単に「物を運ぶ効率を上げること」ではありません。作業の安全性、生産性、品質、人手不足への対応など、現場で起きているあらゆる課題を構造的に解決する手段として機能します。
特に昨今の製造業・物流業界では、少人数運営・高齢化・属人化などの要因により、設備の自動化による現場の標準化・省力化が不可欠になりつつあります。
マテハンの導入は、こうした複合的な課題に対して、1つの投資で複数の効果をもたらす可能性を秘めた選択肢です。
この章では、マテハン導入がもたらす代表的な5つのメリットを紹介します。
- メリット1. 作業効率と生産性が飛躍的に向上する
- メリット2. 慢性的な人手不足・高齢化に対応できる
- メリット3. 作業者の安全と身体的負担を軽減できる
- メリット4. 品質や出荷精度が安定しやすくなる
- メリット5. 在庫管理の精度向上と可視化につながる
各メリットを順に解説していきます。マテハン導入に迷っている方も、自社に当てはまるメリットがあるかをチェックする参考にしてみてください。
まずは「作業効率と生産性の向上」から見ていきましょう。
メリット1. 作業効率と生産性が飛躍的に向上する
マテハン導入によって最も直接的に実感しやすいのが、作業効率の向上です。
例えば、人が台車や手作業で運んでいた荷物を、コンベアやAGV(無人搬送車)に置き換えるだけでも、移動にかかる時間が短縮され、作業のムダが一気に減少します。これにより、作業者1人あたりの処理能力が上がり、同じ人数でも全体の処理量や生産数が増えるといった成果が得られます。
こうしたプロセス改善の積み重ねが、製造リードタイムの短縮や納期遵守率の向上にもつながっていきます。
メリット2. 慢性的な人手不足・高齢化に対応できる
製造業や物流業界では、若年層の人材確保が困難になっている現場が多く見られます。その一方で、高齢化が進んだ現場では、重量物の運搬や長時間の立ち仕事が負担となり、労災や離職のリスクも高まっています。
マテハン機器を導入することで、1人あたりが担う作業の負担を軽減しつつ、複数工程の対応が可能な現場体制を構築することができます。省人化に加え、高齢者や女性でも無理なく作業を続けられる環境づくりという視点でも、マテハンは有効な打ち手となります。人に依存しない体制をつくることで、人材の退職や異動による業務への影響を最小限に抑えることができるのも、大きな利点です。
メリット3. 作業者の安全と身体的負担を軽減できる
マテハン導入によって得られるもう一つの大きなメリットは、現場の安全性の向上と、作業者の身体的負荷の軽減です。
現場では、重量物の持ち上げや不自然な姿勢での作業が原因となり、腰痛・肩こり・転倒といったトラブルが頻発します。これらは一時的な不調にとどまらず、労災認定や長期離脱の原因にもなり得る重要なリスクです。
たとえば、アシストスーツや昇降テーブルを導入することで、無理な姿勢を取らずに済むようになり、身体への負担が大幅に軽減されます。また、自動化された搬送や積載設備によって、作業エリアでの接触事故や衝突のリスクも減少します。結果として、作業者のモチベーションや定着率の向上にもつながるという、人的資源面でのメリットも期待できます。
メリット4. 品質や出荷精度が安定しやすくなる
製品を安定して顧客に届けるためには、作業のばらつきを抑え、正確に出荷できる体制を構築することが不可欠です。これは、製品そのものの品質と同じくらい重要な「現場の品質管理」とも言える領域です。この点において、マテハン機器の導入は大きな力を発揮します。
例えば、ラベル貼りや積載など、手作業によるミスが発生しやすい工程では、自動ラベラーやパレタイザーを活用することで、誰が担当しても一定の精度で処理できる環境を作ることが可能です。また、作業者の疲労や集中力の低下によって引き起こされる破損や誤配送などのトラブルも、人の介在を減らすことでリスクを最小化できます。
このように、マテハンは品質保証や顧客満足度の安定にも貢献する手段として、重要な役割を担います。
メリット5. 在庫管理の精度向上と可視化につながる
在庫が「あるはずなのに見つからない」「いつ補充すべきか分からない」といった問題は、どの現場でも頻繁に発生しています。こうした課題を放置すると、生産計画の乱れや無駄な在庫、納期遅延といった波及効果を生む可能性があります。
マテハン機器と倉庫管理システム(WMS)を組み合わせることで、物の出入りをリアルタイムで把握し、在庫情報の一元管理が可能になります。さらに、棚卸作業にかかる時間や工数も大幅に削減され、人的ミスの発生も抑制できます。
在庫の精度と可視化が進めば、経営側が現場の状況を数字で把握できるようになり、意思決定のスピードも向上します。マテハン導入は、単なる現場改善にとどまらず、全社的な情報整備の起点となり得るのです。
マテハン導入の5つの注意点・デメリット
マテハンは導入すれば自動的にすべてが良くなる魔法のツールではありません。確かに多くの現場で作業効率や安全性の向上につながりますが、導入コストや運用負荷、現場とのミスマッチなど、事前に理解しておくべき課題も存在します。
この章では、マテハン機器の導入にあたってよくある「つまずきポイント」を5つに整理して解説します。
- デメリット1. 初期導入コストが高く、投資回収に時間がかかる
- デメリット2. 現場での定着には教育と調整が必要
- デメリット3. 機器の故障や保守対応の負荷が発生する
- デメリット4. 部分的な導入は逆に全体の非効率を生むことがある
- デメリット5. 自動化しすぎると柔軟な対応力が失われる恐れがある
導入前にこれらの注意点を把握し、適切な対策を講じておくことが、失敗を避ける最善の方法です。特に「過剰な自動化」「機器任せの体制構築」「部分最適で終わってしまう導入計画」などは、多くの現場で共通する落とし穴です。
冷静にリスクと向き合い、自社に合ったマテハン導入を進めるためにも、デメリットは事前に把握しておきましょう。次の章では、上記5つの注意点について、ひとつずつ具体的に見ていきます。
デメリット1. 初期導入コストが高く、投資回収に時間がかかる
マテハン機器の導入には、相応の初期費用がかかります。
たとえば、AGVや自動倉庫などの大型機器は、数百万円から数千万円の設備投資が必要となるケースも珍しくありません。加えて、工場レイアウトの変更、専用電源やネットワークの整備、機器とのシステム連携など、機器以外の周辺コストも無視できません。
このため、設備投資に見合うリターンが得られるかどうかは、導入前に必ず費用対効果を数値でシミュレーションしておく必要があります。「他社が導入しているから」「DXの流れだから」という曖昧な理由で動くと、導入後に期待したほどの成果が出ず、コストだけが重くのしかかるリスクがあります。
導入を成功させるためには、短期回収を求めすぎず、中長期的な改善効果も含めてROIを評価する視点が不可欠です。
デメリット2. 現場での定着には教育と調整が必要
マテハン機器は、設置すればすぐに効果が出るわけではありません。実際には、現場の作業者がその設備を正しく使いこなすまでに時間と労力がかかることが多く、導入直後は一時的に混乱が生じることもあります。
これは、機器の操作スキル以前に、マインドセットや作業習慣の変化への抵抗が背景にあるためです。こうした状況を防ぐには、現場への説明責任を果たしながら、段階的な導入・トライアル運用・教育研修をセットで実施することが重要です。
導入の主導者が現場の“声”に耳を傾けながら、共に体制を作っていくプロセスが、定着のカギとなります。
デメリット3. 機器の故障や保守対応の負荷が発生する
機械設備である以上、マテハン機器にも当然故障やトラブルのリスクがつきものです。
センサーの誤動作、制御ソフトの不具合、部品の劣化による停止など、長く使えば使うほどメンテナンスの重要性は増していきます。特に24時間稼働の現場では、1台のマテハン機器が止まるだけで工程全体がストップしてしまうこともあり得ます。
このような事態に備えて、定期点検・予備機の確保・保守契約の整備など、運用コストと体制の準備が不可欠です。また、保守・修理を委託する場合は、メーカーとの契約内容(対応時間・費用・代替機の可否)を事前に明確にしておくことがトラブル回避につながります。
導入後の維持コストも含めて、全体のライフサイクルを見据えた設計が求められます。
デメリット4. 部分的な導入は逆に全体の非効率を生むことがある
改善したい工程だけにマテハンを導入する、というのは一見合理的に思えます。しかし、全体の流れを見ずに部分最適だけを進めると、かえって別の工程で渋滞やムダが発生するケースがあります。
たとえば、搬送工程だけを自動化したものの、搬入や仕分けが手作業のままであれば、機械が待ち時間で止まる/人が追いつかないという非効率が生まれます。
このようなズレは、導入後の「想定外のトラブル」として、運用側のストレスになりやすいポイントです。導入範囲を絞る場合でも、周辺工程との連携や、導入後の作業全体フローを設計しておくことで、こうしたリスクは軽減できます。マテハン導入は、単なる設備導入ではなく「業務設計の見直し」でもあるという視点が重要です。
デメリット5. 自動化しすぎると柔軟な対応力が失われる恐れがある
マテハンの導入は、作業の標準化と効率化に寄与しますが、すべてを自動化しすぎると、変化への対応力を損なう恐れがあります。
たとえば、製品の仕様変更や急な段取り替えなど、現場では日常的に想定外の対応が求められます。こうした変化に対して、自動化された設備は柔軟に対応できないケースがあります。自動化が進むことで、作業者が考える機会を失い、判断力や対応力が低下する可能性も否定できません。これは、一時的な効率向上の裏で、長期的には現場力の低下につながるリスクです。
マテハンは、人手を不要にするためではなく、人の強みを活かす補助として設計することが重要です。機械と人、それぞれの役割を適切に定義することが、変化に強い現場づくりの前提となります。
マテハン機器を選ぶ前に必ず確認したい5つのポイント
マテハンは種類が多く、導入効果も高い一方で、選定を誤ると大きなコストロスにつながります。現場に合わない機器を入れてしまうと、業務効率の低下や現場の混乱を招くだけでなく、再設計や再投資が必要になるケースもあります。
そのため、機器を導入する前には、自社の業務内容や設備環境、人員体制などを踏まえた上で、いくつかの観点から事前に確認しておくことが重要です。
この章では、マテハン機器を選ぶ際に押さえておきたい5つのポイントを紹介します。
- ポイント1. 現場レイアウトとの整合性は取れているか
- ポイント2. 搬送対象の物量と変動に対応できるか
- ポイント3. 他の設備や工程との連携は可能か
- ポイント4. 保守・トラブル対応の体制が明確か
- ポイント5. 操作性と現場スタッフの習熟レベルにギャップがないか
どの項目も「導入後に気付いて後悔しがちな盲点」となりやすいポイントです。導入プロジェクトの初期段階で一つずつ丁寧にチェックしておくことが、成功の鍵です。
ポイント1. 現場レイアウトとの整合性は取れているか
マテハン機器の導入において、最初に確認すべきは設置場所とその周辺環境です。たとえ高機能な設備でも、現場にフィットしなければ意味を成しません。
具体的には、搬送ルートに十分な幅があるか、機器の旋回半径や稼働範囲が障害物に干渉しないか、天井高や床の耐荷重がスペックを満たしているかといった視点が重要になります。
既存設備との取り合いや、作業員の動線とのバッティングを防ぐためにも、レイアウト図やCADデータを使った事前検証が不可欠です。現場で「思ったより場所を取る」「視界が遮られる」といった後悔を生まないためにも、物理的な整合性は最優先で確認しましょう。
ポイント2. 搬送対象の物量と変動に対応できるか
マテハン機器の選定で見落としがちなポイントが、「処理すべき物量の変動幅をどれだけ想定できているか」です。導入検討時には、平常時だけでなく、繁忙期やイレギュラーな対応が発生するケースを含めて、幅広く見積もる必要があります。
また、搬送対象の形状や重さにバラつきがある場合、汎用性のある搬送機構や調整機能が不可欠です。とくに複数拠点に導入する際は、拠点ごとの物量特性を把握しないと、過不足が発生しやすくなります。こうした変動に対する適応性を整理するには、次のような観点で比較表を作成すると有効です。
時期ごとの物量をまとめた表の例
時期 | 1時間あたりの搬送物量 | 搬送対象の特徴 | 求められる機器仕様 |
---|---|---|---|
通常時 | 約20ケース | 均一サイズの段ボール箱 | 定速搬送/標準パレット対応 |
繁忙期 | 約40〜50ケース | 不定形・重量物も混在 | 高速処理/形状識別・調整機構 |
計画外対応 | 不定期(スポット搬送) | 大型設備部材など特殊物品 | 柔軟な対応力/フレーム可変機構 |
このように変動要素を可視化することで、「どこまで想定すべきか」がクリアになり、過剰投資や機能不足のリスクを減らすことができます。
ポイント3. 他の設備や工程との連携は可能か
マテハン機器が単独で動くだけでは、十分な投資対効果は得られません。周辺機器や既存ラインとの連携性が確保されてこそ、全体最適が実現します。
連携不足によって、結果的に追加工事や改修費が膨らむケースも多く、導入前にどこまで技術的に整合が取れるかを確認する必要があります。特にIT・制御の知見が少ない現場では、見落としがちな論点です。
以下に、導入前に確認すべき連携項目を整理しました。選定前に確認したい連携の観点は以下のとおりです:
- 上位システムとの通信仕様
- I/Oインタフェースの互換性(デジタル/アナログ信号)
- 制御ソフトのカスタマイズ自由度と対応言語
- センサ/アクチュエータとのリアルタイム連携可否
- 既存設備のPLC構成との整合性と追加工数
このようなチェックリストがあれば、現場の担当者がIT部門や外注ベンダーとスムーズに協議を進められます。最終的には、「単体最適」ではなく「ライン全体での効率性」を目指すための意思決定が求められます。
ポイント4. 保守・トラブル対応の体制が明確か
どれほど優れた機器であっても、使用中に不具合が発生する可能性はゼロではありません。重要なのは、故障時にどれだけ迅速に復旧できるか、その仕組みが構築されているかです。
具体的には、保守契約の内容、定期点検の頻度、部品の国内在庫状況、リモート診断の有無、対応拠点の距離などが判断材料となります。導入後に初めて「トラブル発生時に技術者の手配が数日後だった」と判明しては、現場は立ち行きません。
あわせて、故障率や過去のトラブル事例なども確認し、安定性の観点でも評価しておくとよいでしょう。
ポイント5. 操作性と現場スタッフの習熟レベルにギャップがないか
見落とされがちですが、現場の誰が操作し、どの程度の教育で扱えるようになるかは、マテハン導入の成否を分ける重要な論点です。複雑すぎるUIや、専門的な知識を要する操作体系では、初期教育の負担が重くなり、運用定着に時間がかかる可能性があります。
とくに多拠点展開やシフト勤務の現場では、属人化を避け、誰でも一定水準の操作ができる状態を目指すべきです。そのためには、導入前には現場担当者とともにデモ機や操作画面などを確認して、現場の担当者が「実際に使いこなせるか」を検証しておくと良いでしょう。
投資対効果を見える化する主要KPI
マテハン機器は、一台ごとの金額が高額である一方、運用開始後すぐに効果が見えにくいという特性があります。そのため、「なぜ導入したのか」「どれほど成果が出ているのか」 を社内で説明するための指標(KPI)が非常に重要です。
とくに経営層や管理部門へ投資効果を報告する場面では、定量的な裏付けがないと説得力に欠け、次の設備投資の承認にも影響しかねません。
この章では、導入効果を評価するための代表的なKPIを6つ紹介します。それぞれ、測定のしやすさと実務における再現性を重視して選定しました。導入前後の比較に使えるよう、定義や算出方法も明記します。
- KPI1. 作業員1人あたりの搬送処理量
- KPI2. ピッキング・仕分けの作業時間短縮率
- KPI3. 稼働停止時間の削減(MTTR)
- KPI4. 搬送ミス・誤配送の発生件数
- KPI5. 保守・メンテナンスコストの変化
- KPI6. 設備ROI(Return on Investment)
次章では、それぞれのKPIについて定義・算出例・活用ポイントを解説します。マテハン導入の成果を、現場と経営の両方に伝わる形で「見える化」するヒントとしてご活用ください。
KPI1. 作業員1人あたりの搬送処理量
定義:
マテハン導入前後で、1人の作業員が1時間あたりに処理できる搬送物量を比較する指標です。人件費削減や省人化の効果を定量的に示す際に有効で、現場の運用改善レベルを測ることも可能です。
算出式:
総搬送処理量 ÷ 作業時間 ÷ 作業員数
活用ポイント:
この数値が大幅に上昇していれば、「同じ人員数でより多くの業務がこなせている」という明確な成果となります。ただし、精度・安全性とのバランスも見ながら評価する必要があります。
KPI2. ピッキング・仕分けの作業時間短縮率
定義:
ピッキングや仕分けといった特定作業の所要時間が、導入によって何%短縮されたかを示すKPIです。
算出式:
(導入前の平均作業時間 − 導入後の平均作業時間) ÷ 導入前の平均作業時間 × 100
活用ポイント:
現場作業の中でもピッキングや仕分けは属人性が高く、作業者のスキル差が出やすい業務です。そのため、作業フローをマテハンで標準化・自動化できれば、短縮率がそのまま業務効率の改善度合いを示します。
KPI3. 稼働停止時間の削減(MTTR)
定義:
MTTR(Mean Time to Recovery)とは、設備が停止してから復旧するまでの平均時間を指します。マテハン導入によって障害発生頻度や対応のしやすさが変わるため、トラブル時の影響範囲を評価するKPIとして使われます。
算出式:
総停止時間 ÷ 停止件数
活用ポイント:
MTTRが短縮されていれば、導入機器の保守性が高いことや、保守体制の整備効果を裏付ける材料になります。また、定期点検やアラート通知機能など、予防保全の効果測定にも使えます。
KPI4. 搬送ミス・誤配送の発生件数
定義:
ピッキングミス、誤搬送、誤配送などの人的・機械的ミスの発生件数を集計し、導入前後で比較する指標です。とくに誤出荷によるクレームや返品コストの削減は、定量的に示すことで説得力のある成果となります。
算出方法:
一定期間内の誤配送件数(または誤搬送件数)を記録し、期間ごとに推移を比較
活用ポイント:
目視確認や手作業が多かった工程に自動化を導入した場合、ミス削減の効果が顕著に出やすいです。また、センサ連携・バーコード照合・デジタルピッキングなど、精度向上の仕組みとの相関分析も重要です。
KPI5. 保守・メンテナンスコストの変化
定義:
機器導入後に発生する定期点検費用、修理対応費用、部品交換費用など、維持管理に関わるコストの増減を把握する指標です。
算出方法:
導入前後での1年間の保守関連費用を比較
活用ポイント:
マテハン機器によっては、導入時点では高額でも、故障率が低く、長期的にはコスト削減につながる製品もあります。単年度の金額だけで判断せず、3〜5年スパンでのトータルコストを見積もる視点が必要です。
KPI6. 設備ROI(Return on Investment)
定義:
ROIは投資利益率を示し、マテハン機器の導入によって得られる経済的効果が、投資額に対してどれだけあったかを数値化します。
算出式:
(年間削減コスト+増収分 − 投資額) ÷ 投資額 × 100
活用ポイント:
経営層への報告で最も重視されやすい指標です。費用対効果を一言で示すことができ、「導入してよかった」と社内の意思決定者を納得させる材料になります。
なお、ROIだけでは現場課題の本質を捉えきれない場合もあるため、KPI1〜5とセットで語るのが望ましいです。
マテハン機器の導入に悩んだら、まずはTMCシステムにご相談ください
マテハンは、単に「ものを運ぶ設備」としてではなく、生産性や安全性、従業員満足度を左右する現場改革の起点といえます。
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- 設備投資の意思決定に必要なKPIが明確になっていない
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