技術コラム|TMCシステム

  1. TMCシステム株式会社
  2. 技術コラム - 工場等の自動化(FA)・省人化を応援!
  3. FA(ファクトリーオートメーション)
  4. 製造業における官能検査とは?特徴から検査方法、検査の種類、外観検査との違いまでを解説

製造業における官能検査とは?特徴から検査方法、検査の種類、外観検査との違いまでを解説

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

製造業における製品の品質は、消費者の満足度と企業の信頼性に直結する最も重要な要素の一つです。寸法や重量といった数値で測定可能な「客観的品質」に加え、食品の「おいしさ」、自動車の「乗り心地」、化粧品の「使用感」といった、人の感覚によって評価される「感性的品質」もまた、製品の価値を大きく左右します。

この「感性的品質」を評価するために不可欠なのが「官能検査」です。

本記事では、製造業の品質管理に関わる方に向けて、官能検査の基本的な定義から、その重要性、具体的な種類、そして外観検査や機械検査との違いについて解説します。
 

  

官能検査とは?


官能検査は、製品の品質を人間の感覚(五感)を用いて評価する手法です。数値化が難しい「感性」に関わる領域を評価対象とし、食品、自動車、化粧品、繊維など、幅広い業界で活用されています。ここでは、官能検査の基本的な定義、その役割、そして具体的な検査の種類について解説します。

官能検査の定義

官能検査は、「人間の感覚(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を用いて、製品やサービスの特性を評価する検査」と定義されます。

簡単に言えば、測定機器の代わりに「人」が検査員(パネル)となり、その五感を使って製品の良し悪しを判断する手法です。例えば、「この飲料は、基準品と比べて甘みが強いか」「このシートの触り心地は滑らかか」「この機械の作動音に不快な音が含まれていないか」といった、機械では測定困難な人間の知覚や感性に基づく評価を行います。

参考:JIS Z 8144「官能評価分析−用語」

官能検査の役割と重要性

官能検査の最も重要な役割は、消費者が製品を使用した際に感じる「価値」や「満足度」を、製造段階で評価・保証することです。

製品のスペック(仕様)がどれほど優れていても、最終的に消費者が「おいしくない」「使いにくい」「安っぽい」と感じれば、その製品は市場で受け入れられません。官能検査は、こうした消費者の最終的な評価と、製品の物理的・化学的特性との間の「橋渡し」を担います。

また、新製品開発においては、ターゲット層が好む味や香り、デザインを特定するための重要な手段となります。製造ラインにおいては、日々の製品が基準通りの品質(例:いつもの味、いつもの手触り)を維持しているかを確認する品質管理の役割も果たします。

官能検査の種類


官能検査は、人間の五感それぞれを活用して行われます。製品の品質を多角的に捉えるため、視覚だけでなく、聴覚、触覚、嗅覚、味覚といった様々な感覚が評価に用いられます。これにより、数値データだけでは捉えきれない、消費者が実際に体験する「感性的な品質」を評価することが可能になります。各感覚を用いた具体的な検査方法については、以下の表で詳しく見ていきましょう。

五感 主な評価対象(例) 具体的な検査内容と活用例
視覚 色合い、光沢、模様、表面の傷、透過度、形状、サイズ、表面仕上げ 製品の外観に関する多様な要素を評価。電子基板の部品搭載状態や半田付け品質の目視確認、自動車塗装の均一性や光沢評価など。外観から判別できる欠陥や不具合を検出します。
聴覚 異音、動作音、音質、振動、部品の緩み 製品から発せられる音や振動を評価。自動車のエンジン音、家電製品の動作音の異常チェック、楽器の音色や音量評価など。機械部品の緩みや異音の検出にも使用されます。
触覚 硬さ、表面の滑らかさ、弾力、肌触り、使い心地、継ぎ目の滑らかさ 製品の触り心地、使い心地、肌触りなどを評価。自動車の内装(ダッシュボード、シート)の質感評価、電子機器のボタン操作感確認、布製品の肌触りや風合いの評価など。
嗅覚 香り、異臭、臭気 製品の香りや異臭の有無を評価。プラスチック成形品の異臭検査、塗装の臭気確認、香水や化粧品の香り評価など。材料の劣化や不適切な調合による異臭の検出に役立ちます。
味覚 味、舌触り、歯触り 製品の味、舌触り、歯触りなどを評価。主に食品製造業や飲料業界で活用される、製品の「おいしさ」や「風味」の品質管理に不可欠な検査方法です。

参考:株式会社テックコーポレーション「官能検査とは?種類や評価方法、外観検査との違いを解説」

官能検査と外観検査との違い


官能検査と混同されやすい検査に「外観検査」があります。どちらも人間の「視覚」を使う場合がありますが、その目的と手法には明確な違いがあります。ここでは、官能検査と外観検査の違いを4つの視点から解説します。

目的の違い

  • 官能検査:
    製品が持つ「感性的な品質」を評価することが目的です。例えば、食品の「おいしそうな焼き色か」、自動車の塗装の「深みのある光沢か」など、人の主観的な感覚や経験に基づく評価が含まれます。
  • 外観検査:
    人による目視検査のほか、近年ではカメラや画像処理システムによる自動検査(自動外観検査)も広く普及しています。自動化により、検査の高速化と基準の統一が可能になります。

使用する感覚の違い

  • 官能検査:
    五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)のすべてが評価対象となります。製品の特性に応じて、複数の感覚を組み合わせて総合的に評価します(例:食品の「見た目」と「香り」と「味」のバランス)。
  • 外観検査:
    主に「視覚」(目視)を使用します。検査員が目で見て、製品表面の欠陥や異常を検出します。

手法の違い

  • 官能検査:
    評価基準のブレをなくすため、統計的な知識や製品知識について専門的な訓練を受けた検査員(パネル)が評価を行います。評価環境(室温、明るさ、静音性など)も厳密に管理されます。
  • 外観検査:
    主に「視覚」(目視)を使用します。検査員が目で見て、製品表面の欠陥や異常を検出します。


それぞれの特徴

  • 官能検査:
    人の感覚を使うからこそ可能な、機械では捉えきれない繊細で高度な判断(例:「心地よい」音、「高級感のある」手触り)が可能です。一方で、検査員の体調や熟練度によって結果が変動する可能性があり、検査環境の標準化や定期的な訓練が不可欠です。
  • 外観検査:
    「キズの長さが1mm以下」など、客観的な基準に基づいて検査します。自動化システムを導入することで、検査品質を一定に保ちやすく、24時間稼働による生産性向上も期待できます。

官能検査と機械検査の違い


官能検査が「人」による評価であるのに対し、「機械」による検査(機械検査)も広く行われています。外観検査の自動化も機械検査の一種ですが、ここでは音、匂い、触感など、視覚以外の領域における機械検査と官能検査の違いを解説します。

比較項目 官能検査(人間) 機械検査(機器)
評価対象 複合的な感覚(味と香りのバランスなど)、感性的な品質(高級感、不快感など) 特定の物理的・化学的特性(音の周波数、特定の化学物質濃度など)
検出能力 未知の異常(予期しない異臭、異音)の検出に優れる。 既知の基準(設定された閾値)に対する逸脱の検出に優れる。
再現性 低い(体調、疲労、個人差の影響を受ける) 高い(常に一定の基準で測定可能)
判断 総合的・主観的判断(「不快だ」「おいしい」) 定量的・客観的データ(「○○dB」「△△ppm」)
導入 パネルの教育・訓練コスト、環境整備が必要。 機器の初期導入コスト、メンテナンスコストが必要。
具体例 ・ワインソムリエによるテイスティング
・自動車のドアの閉まり音の評価
・音響センサーによる異音検査
・電子鼻(匂いセンサー)による香気成分分析

両者は対立するものではなく、相互補完的な関係にあります。例えば、機械検査で特定の周波数に異常(データ上のピーク)を検出し、その音を実際に官能検査で「不快な高周波音である」と確認・評価する、といった連携が行われます。

官能検査のメリット


機械検査やAI技術が進歩する現代においてもなくなってはいません。官能検査が多くの製造現場で採用され続けるのには明確な理由があります。ここでは、官能検査が持つ2つの主要なメリットを解説します。

メリット1. 導入コストが抑えられる

官能検査の最大のメリットの一つは、高価な測定機器や分析装置を必要としない点です。検査の「センサー」となるのは人間の五感であるため、初期導入コストを大幅に抑えることができます

もちろん、検査員(パネル)の選定や教育、評価環境の整備(評価ブースの設置など)にはコストがかかりますが、特定の物質しか測定できない高額な分析機器を多数揃えることに比べれば、柔軟かつ安価に多様な評価を開始できる点は大きな利点です。

メリット2. 複数の感覚を使って評価できる

機械検査は、音、色、成分など、特定の単一指標を測定することには優れています。しかし、現実の消費者が製品を評価する際は、複数の感覚を同時に使っています。

例えば、食品の「おいしさ」は、「見た目の美しさ(視覚)」「食欲をそそる香り(嗅覚)」「甘味や塩味のバランス(味覚)」「歯ごたえ(触覚・聴覚)」といった複数の要素が複雑に絡み合って形成されます。官能検査は、こうした複合的な感覚情報を総合的に評価できる唯一の手法であり、消費者のリアルな体験に近い形での品質評価が可能です。

官能検査の課題


官能検査は強力な手法である一方、「人」が介在することによる特有の課題も抱えています。これらの課題を認識し、対策を講じることが、官能検査の信頼性を担保する上で極めて重要です。

課題1. 主観性の影響

検査員は訓練を受けていても人間であるため、その日の体調、疲労度、さらには個人の嗜好(無意識の偏り)が評価結果に影響を与える可能性があります。この「評価のブレ」は、官能検査の客観性と再現性を低下させる最大の要因です。特に、長時間の検査による疲労は、感覚の鈍化(順応)を引き起こし、検査精度の低下に直結します。

課題2. 教育に時間がかかる

客観的な評価を行うための検査員(パネル)を育成するには、多くの時間とコストが必要です。製品知識はもちろん、評価基準の正確な理解、評価用語の統一、統計的な分析手法の習得など、体系的な教育と定期的な訓練が求められます。熟練したパネルの確保と維持は、多くの企業にとって大きな負担となっています。

課題3. 統計的に十分な検査員数とサンプル数が必要になる

官能検査は統計的手法に基づくため、信頼性の高い結果を得るには複数名の検査員と一定数のサンプルが必要です。日本官能評価学会のガイドラインやJIS Z 9080(官能検査—用語)では、目的に応じて複数パネルでの評価を前提としており、少人数では結果のばらつきが大きくなるとされています。

複数名の検査員を確保するには、評価基準の統一や継続的なトレーニングが不可欠で、人員育成と運用コストが増大します。人手不足が続く製造現場では、こうしたパネル体制を維持すること自体が大きな負担です。

出典:日本官能評価学会「官能評価ガイドライン」
出典:日本規格協会:JSA

課題4. 検査員の疲労の発生

官能検査、特に品質管理における全数検査や抜き取り検査は、単純作業の繰り返しになることが多く、検査員に大きな精神的・身体的負担を強います。

厚生労働省の「令和4年 労働経済動向調査」の概況によると、2023年2月調査時点で、製造業の労働者過不足判断D.I.(Diffusion Indexの略で、変化の方向性を表す指標)は+31ポイントとなっており、多くの企業が人手不足を感じていることが示されています。人手不足の中で、負担の大きい検査工程を維持することは、現場の疲労を増大させ、ヒューマンエラーのリスクを高める要因となります。

参考:厚生労働省「令和4年 労働経済動向調査(令和5年2月)の概況」

官能検査が有効なケース


官能検査は、特に機械による数値化が困難で、消費者の感性的な満足度が製品価値に直結する分野でその真価を発揮します。

ケース1. 香水の開発における香りの評価

香りは、官能検査でしか評価できない典型的な分野です。香水の開発では、専門の調香師(パフューマー)や評価パネルが、香りの「トップノート(つけたての香り)」「ミドルノート(中心となる香り)」「ラストノート(時間が経ってからの香り)」という時間経過に伴う複雑な変化を追跡します。機械(ガスクロマトグラフィーなど)で成分を分析することはできても、それらの成分が組み合わさって生み出される「魅力的な香り」「高級感のある香り」といった感性的な価値を評価することはできません。

ケース2. 完成車の動作音・異音・異臭の評価

自動車産業では、走行性能や安全性だけでなく、「乗り心地の良さ」や「高級感」といった感性品質が強く求められます。

音の評価:ドアを閉めたときの「重厚な音」、エンジンの「スポーティーな音」、エアコンの「静かな作動音」など、単なる音量(dB)ではなく、消費者が心地よいと感じる「音質」が評価されます。J.D. Powerが実施した2023年日本自動車耐久品質調査(VDS)においても、「音・振動・異音(Squeak/Rattle)」カテゴリーは不具合指摘件数が最も多いカテゴリーの一つとなっており、消費者が音の品質を重視していることがわかります。

臭いの評価:ダッシュボード、シート、接着剤などから揮発する化学物質の臭気が、不快でないか、許容範囲内かを評価します(VDA 270などドイツ自動車工業会規格に基づく評価が知られています)。「新車臭」がブランドイメージに適しているかも含めて判断されます。

参考:J.D. Power「2023年日本自動車耐久品質調査(VDS)」

ケース3. スキンケア製品のテクスチャ評価

化粧水やクリームなどのスキンケア製品において、「テクスチャ(使用感)」はリピート購入を決定づける重要な要素です。専門の評価パネルが製品を実際に使用し、「肌へのなじみやすさ(伸びの良さ)」「塗布後のべたつき感のなさ」「潤いの持続性(しっとり感)」といった、機械では測定不可能な皮膚感覚を詳細に評価します。これらの評価結果は、製品の処方(成分配合)を最適化するためにフィードバックされます。

検査効率を上げるためのヒント


官能検査の信頼性を維持しつつ、人手不足やコストといった課題に対応するためには、テクノロジーを活用した効率化が鍵となります。

ヒント1. 自動化による効率化

官能検査のすべてを自動化することは困難ですが、検査工程の一部を自動化することで、検査員の負担を大幅に軽減することは可能です。

例えば、外観検査(キズ、汚れ、異物など)や単純な音響検査(明らかな異音)など、基準が明確な検査項目を画像処理システムや音響センサーで自動化(一次スクリーニング)します。そして、官能検査でしか判断できない「質感」「音質」といった感性的な評価に熟練した検査員が集中する、という分業体制を構築することが有効です。これにより、検査員は疲労のたまりやすい単純作業から解放され、より高度な判断が求められる業務にリソースを集中できます。

ヒント2. AI技術による検査精度向上

近年では、AI(人工知能)技術を活用し、官能検査の領域に踏み込むソリューションも登場しています。

  • 音響認識AI:熟練検査員が「正常音」と「異常音」を判定したデータをAIに学習させ、その判断基準を模倣するシステムです。検査員の「匠の耳」をデジタル化し、24時間体制で安定した異音検査を行うことを目指します。
  • 電子鼻(匂いセンサー)+AI:複数のセンサーで検出した匂いのパターンをAIで分析し、「特定の香り」や「異臭」として識別する技術です。食品の鮮度管理や工業製品の異臭検査などへの応用が研究されています。


これらの技術は、官能検査の「判断のブレ」を補正し、客観的なデータとして蓄積することを可能にします。グランドビューリサーチによると、外観検査の画像処理の関連市場は、2024年に約203億ドル、2030年に約417億ドルと推計されており、AIによる検査自動化・高度化の影響は無視できません。

参考:マシンビジョン市場:2024年 ≈203.8億USD、2030年 ≈417.4億USD(GVR)(グランドビューリサーチ)

検査工程は製品の信頼性に直結する重要な工程!官能検査や外観検査に関するご相談はTMCシステムへ!


本記事では、製造業における官能検査について、その定義から重要性、種類、そして外観検査や機械検査との違いに至るまで詳しく解説しました。

官能検査は、機械では測定できない「おいしさ」や「心地よさ」といった消費者の感性に訴えかける品質を評価・保証するために不可欠な手法です。安定的かつ高精度な品質管理体制を構築するためには、官能検査と機械検査(自動化)を適切に組み合わせることが重要です。


TMCシステムでは、画像処理システムやAI技術を活用し、官能検査でしか対応できないと諦めていた検査工程の自動化・効率化をサポートします。「検査員の負担を減らしたい」「検査精度を安定させたい」「人手不足で品質管理が追いつかない」といったお悩みをお持ちの担当者様は、ぜひTMCシステムまでお気軽にご相談ください。

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加